長野県上伊那地域で、未来を担う子どもたちの育成と地域全体の活性化を目指す革新的な「郷土愛プロジェクト」が力強く推進されています。上伊那8市町村の産学官が連携し、従来の枠組みを超えて協働するこの取り組みは、少子高齢化や若者の地域離れといった課題に対し、地域ぐるみで向き合い、次世代への希望を紡ぐ新たなモデルとして注目されています。本稿では、その情熱的な取り組みの中から、キャリア教育、職業体験、キャリアフェスを中心に、その魅力と未来への展望をご紹介します。

郷土愛プロジェクトとは

郷土愛プロジェクトは、地域を愛し、その未来を主体的に担う人材育成のため、上伊那8市町村(伊那市、駒ヶ根市、辰野町、箕輪町、飯島町、南箕輪村、中川村、宮田村)の自治体、教育委員会、商工団体、企業などが「オール上伊那」体制で連携する一大プロジェクトです。

「協働」と「共創」を理念に、次世代育成、地域資源の活用、地域課題の解決など多岐にわたる活動を展開し、「子どもたちの笑顔が、地域の元気の源泉となる」という想いが、プロジェクトを力強く推進しています。

キャリア教育

プロジェクトが注力する一つが、子どもたちが主体的に人生を切り拓く力を育むキャリア教育です。地域社会全体を「学びの場」と捉え、発達段階に応じたプログラムを開発・導入しています。小学校ではふるさとへの親しみを、中学校では具体的な職業観を、高校では地域課題を探究する実践的な学びを推進しています。

特筆すべきは、地元企業の経営者や技術者、職人など「地域の先輩」が講師として教壇に立ち、仕事への情熱や経験を直接伝える点です。子どもたちは「地元にも面白い仕事がある」「こんな大人になりたい」と目を輝かせ、講師役の大人も刺激を受けることで、世代間の温かな交流が生まれています。これにより、子どもたちの自己肯定感や学習意欲の向上、そして将来的なUターン・Iターン促進への「種まき」が丁寧に行われています。

学校と地域企業が連携した職業体験

キャリア教育の柱として、学校と地域企業が連携した質の高い職業体験プログラムを推進しています。生徒が主体的に「仕事」に関わり、働く意義や面白さを実感することを目指し、多様な業種の受入企業を開拓。製造業での組立補助、サービス業での接客、農業法人での収穫作業など、生徒の興味に応じた体験を提供しています。

ある製造業の社長は「生徒たちの真剣な姿に刺激を受けた」と語り、体験した中学生は「パン屋の仕事で人を喜ばせる仕事がしたいと思った」と目を輝かせます。このような成功事例を増やすため、学校・企業・地域コーディネーターの連携体制を構築。事前学習から事後学習までを丁寧にサポートし、体験を血肉となる学びへとつなげています。企業にとっても、地域貢献に加え、自社の魅力を未来の担い手に伝え、将来の人材確保に繋がる貴重な機会となっています。

キャリアフェス

プロジェクトの象徴的なイベントが、地域最大級の「上伊那キャリアフェス」です。子どもから大人まで、誰もがキャリアを考え、多様な生き方や働き方に触れることを目指しています。会場には地元企業や団体が多数出展し、仕事紹介や体験コーナー、社員との交流の場を提供。著名人による講演や学生の研究発表なども企画され、進路に悩む学生だけでなく、社会人にとっても多くの気づきを得られる場となります。

過去の開催では多くの来場者があり、学生からは「地元の企業をたくさん知れた」「将来のイメージが具体的になった」との声が寄せられました。企業からも「学生の熱意を感じた」「自社の魅力を伝えられた」と好評です。キャリアフェスは、若者と地域企業、そして地域住民がエネルギーを交換し合う「共鳴の場」であり、若者が地元への関心を深め、「上伊那で働く、暮らす」ことをリアルに考えるきっかけとなることが期待されます。

郷土愛プロジェクトが描く未来

郷土愛プロジェクトの挑戦は、子どもたちの主体的な輝きや、産学官の協働文化の醸成といった確かな手応えが見え始めています。継続のための財源確保や担い手育成といった課題はあるものの、目指す未来は明確です。それは、上伊那で育った子どもたちがふるさとに誇りを持ち、地域社会の担い手として活躍し、全ての世代が生き生きと暮らせる持続可能な地域社会の実現です。

上伊那の「郷土愛プロジェクト」は、未来世代への惜しみない投資であり、地域を愛する人々の熱意と知恵の結晶です。産学官が壁を越えて手を取り合う姿は、持続可能な地域社会のあり方を示すことでしょう。